とっても素敵な「劇評」です。
BY 山田勝仁(演劇ジャーナリスト)
このような舞台が現代の日本で違和感もなくリアルに迫ってくる時代に恐怖する。もはや越えてはならない時代の転換点を越えてしまったということか。
瀬戸山美咲が流山児★事務所に書き下ろした「わたし、と戦争」(演出も瀬戸山美咲=ミナモザ)のこと。
舞台は近未来の日本。憲法は改正され、自衛隊=日本軍にとって「戦争」はごく普通の日常光景となっている。
今しもアジア某国での戦闘が終息。戦場から兵士が戻ってくる。いわゆる帰還兵。
女性兵士・ユリ(林田麻里)もその一人。彼女を待ち受けていた日常。スーパー店員としての平穏さになじめないユリ。彼女が唯一心を許せるのは戦場の同僚・マキ(町田マリー)。
ユリはヒサエ(円城寺あや)が主宰する帰還兵の心をケアするグループカウンセリングを受けている。そんなユリに"反戦作家"の叔父・ケイスケ(里美和彦)から見合い話が持ち込まれる。相手は兵役拒否のために自傷したタクヤ(甲津拓平)。
ある日、ユリの体験談が掲載された雑誌を読んだリョウジ(五島三四郎)が訪ねてくる。彼は戦場でユリと同じ部隊の上官。脊髄を負傷し、今は車椅子生活。リョウジはゲリラ討伐の功で家族が誇る英雄。しかし…。
ユリ、マキ、リョウジーー3人の兵士が見た戦場の真実とは…。
憲法が改正され自衛隊が「国軍」となり、戦争ができる国になるということは、こういうこと。日常の中に戦争が入り込む。大学では兵器の研究が行われ、戦争に反対することは表立って出来ない。
そしていざ戦争に参加すると、心身に傷を負うのは生身の人間。戦場で人を殺した帰還兵は日常に戻ることができるだろうか。
憎しみもない、見知らぬ人を殺した人間はいくら戦争だからといって、そのまま日常に戻れるはずがない。イラク帰還兵の自殺率の高さ。
まさか帰還兵問題が日本の演劇の中でリアルに立ち上がるとは、20年前までなら思いもしなかった。
戦場還りの女性兵士という、これからの日本で起こりうる問題を女性の視点からリアルに、そしてリリカルに描くのは瀬戸山美咲ならでは。
女性の微妙な心理と時代の空気感が投影されている。
リョウジの父役で若杉宏二が久しぶりの出演。
ほかのキャストは以下の通り。
坂井香奈美(ユリの姉)、小林あや(ユリの叔母)、上田和弘(サトミの夫)、伊藤弘子(リョウジの母)、竹本優希(リョウジの妹・高校生)、佐原由美(チハル=リョウジが思いを寄せる女子大生)、荒木理恵(ワカコ=ルポライター)。
1時間55分。
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