BY「月町1丁目1番地」
池袋豊島公会堂「みらい座いけぶくろ」で流山児★事務所の「テラヤマ☆歌舞伎 無頼漢―ならずものー」を観る。
社会派の中津留章仁さんが寺山修司の原作をどんな歌舞伎に書くのか期待していたが“庶民のうっぷん晴らし”という歌舞伎本来の表現に時代を反映させて見事な「平成の歌舞伎」になっていた。
社会の底辺で生きる者に権力者の理想など机上の空論、お江戸が炎上すれば政権交代、というのは江戸時代か、平成の世か?!
江戸後期、老中水野忠邦の過激な改革のせいで庶民の暮らしは窮屈になる一方だ。歌舞伎は取り締まられ、花火も禁止、女どもは商売が出来なくなった。遊び人の直次郎(五島三四郎)は、世の中を変える芝居がしたいと役者を志願する男。美しい花魁の三千歳(田川可奈美)と恋に落ち、悪徳商人森田屋に身受けされそうな三千歳を守ろうとする。三千歳は生き別れた母を探しており、人斬りになった兄を憂いていた。
一方、権力者水野(塩野谷正幸)の近くにいながら、体制に批判的で“不良”オヤジの茶坊主河内山宗俊(山本亨)は松江出雲守の妾にされそうな上州屋の一人娘を五百両で取り戻す事を請け合う。
お上に抗う歌舞伎者たちは河内山と共に出雲守の屋敷へ乗り込み、上州屋の娘と、やはり餌食にされようとしている三千歳を救うため死闘を繰り広げる。
そしてついに江戸の町に火が放たれ、禁じられていた五尺玉の花火が上がる。河内山は二人を救い出せるのか、三千歳の母親は、直次郎の恋の行方は…?
久しぶりに“暮れの12時間時代劇”を観たような気分。時代劇の楽しさ満載でわくわくした。
強請集り(ゆすりたかり)で名を馳せた河内山宗俊の台詞もケレン味たっぷりで心地よく悪い奴ながら庶民の味方をする男は山本亨さんにぴったり。
対する水野忠邦の端正なたたずまいは正統派時代劇風だ。塩野谷さんの権力の頂点に君臨する侍ぶりが素晴らしい。するする登ると仁王立ちで演説、侍の所作も美しく、鍛えられた動きにほれぼれした。
直次郎役の五島三四郎さん、直情型の遊び人を粋な江戸っ子らしく演じてとても良かった。谷宗和さん、水野の不正を暴こうと一座に紛れて機会を狙う元武士の役で「花札伝綺」に続いて拝見したが、とても“無頼”の似合う役者さんだと思う。
現代の問題を論理的に追及しつつエンタメに展開するというのが中津留さんのスタイルだと思っていたが今回は逆だ。
エンタメの中に社会問題を巧みに織り込んだ感じ。芝居がかった河内山の台詞など歌舞伎ベースでありながら台詞が柔軟で随所に現代的な笑いもあった。
上妻宏光さんの三味線がもっと冴えるかと思ったが、歌声に埋もれてしまった感じ。公演中1度でもライブで演奏したら、すごい音だろうと思うとちょっと残念。
時代劇ファンとしては、リアルでない歌舞伎っぽいチャンバラも様式やお約束も、猥雑さも楽しかった。
それに何と言ってもあのエネルギー、体制に反発し束縛を憎む精神が息づいている。オープニングを野外で行うという、いわば「河原でやっていた頃の芝居」の再現を宣言するような始まり方も、原点へのオマージュを感じさせる。
この底辺の人間の怒りとパワー、最近調子こいてるどこぞの腹イタぼんぼん宰相に見せつけてやりたいと思ったぜ。