「新・殺人狂時代」(作:鐘下辰男、演出:日澤雄介)
「歴史の中に鮮烈に浮かび上がる人の真情」 山本健一(演劇評論家、元朝日新聞編集委員)
日澤は流山児★事務所公演の鐘下辰男の新作「新・殺人狂時代」(6月、ザ・スズナリ)でも、演劇の直接性を生かした迫力ある演出を見せた。3・11物だが、地震と津波のため地下の原発作業所に閉じ込められた十三人の男たちの物語。レジナルド・ローズの「十二人の怒れる男」を土台ににした。荒っぽい男たちのサバイバルをめぐる「討論劇」の様相がある。
孫請けらしい十三人の作業員たちが、地元組と流れ組に分かれて抗争する。閉じ込められた場所の直下に原発格納室がある極限状況。外部からの流れ者を装うフリージャーナリストの男1サトウ(木暮拓矢)は、事態を直視しようとする。少年の無実をはらすローズ版の陪審員8号か。
これに対立する地元組のやくざである男8ナカムラは、ファナティックな陪審員3号か。がなりたてるせりふはややうるさいが、対立と人物の性格はくっきり出ている・
暗闇の中、時折舞台を照らす照明(朝日一真)が、迫りくる放射能汚染を表現して恐怖を次第に強める。最後、脱出路を探しに格納室へ全員が降りて行く。照明が、つまり放射能が強烈に荒ぶる男たちを浮かび上がらせる。
この無残な終末表現には、現代を映してのっぴきならない迫力がある。