断絶と不寛容が深刻に世界をむしばむ。そのなかにあって、演劇は何を問いかけることができるのか。人間や社会を多角的に見つめる作品が目を引いた。
創作劇は、野田秀樹作・演出「逆鱗」、詩森ろば作・演出「OKINAWA1972」、中津留章仁作「琉球の風」(松本祐子演出)、前川知大作・演出「遠野物語・奇ッ怪其ノ参」などが歴史観を交え社会を照射。また、評伝を超えた人間ドラマとなった瀬戸山美咲作・演出「埒(らち)もなく汚れなく」、エッジの利いたセンスを見せた谷賢一作・演出「テレーズとローラン」も強い印象を残した。
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161206/dde/012/200/003000c…
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なんと若者達が躍動する沖縄のヤクザ抗争から舞台は始まった――詩森ろば作・演出「OKINAWA1972」
図書新聞No.3281 ・ 2016年12月03日号
劇団・流山児★事務所の本拠地で行われたSpace早稲田演劇フェスティバル2016で、詩森ろば作・演出「OKINAWA1972」を観た。1972年といや沖縄返還の年。それを今どの様に扱うのかと思っていたが、やった! なんと若者達が躍動する沖縄のヤクザ抗争から舞台は始まったのだ。
そして沖縄ヤクザの歴史がコミカルに展開される。沖縄には戦前、日本本土の様なヤクザはいなかった。米軍占領下、沖縄の人々は収容所に収容され、若者の一部は生きるため米軍物資を掠め取った。これを戦果アギャーと言い、彼らが沖縄ヤクザの萌芽となる。彼らの中から、後に基地周辺のバー街を米兵の暴力から守る用心棒となり、嘉手納基地のあるコザを中心とした集団を形成、コザ派と称された。また、那覇の路上賭博などの用心棒を空手道場の若者達が担い、那覇派を形成した。この二派が分派抗争を繰り返し、60年代後半に、又吉スター(劇中は知念)を中心とする那覇派と新城ミン夕ミー(劇中は比嘉)を中心とする山原派(元コザ派)に収斂されていった。この辺りオイラ故・竹中労さんから当時聞いてたからワクワクする。
一方、日本政府の佐藤栄作首相(なんと流山児祥が演じ歌まで歌う)は沖縄返還交渉に若泉特使を派遣、非核三原則を盾に核抜き本土並み返還を求めるが、アメリカに押し切られ、有時の通告による核の持ち込み、返還移転費用の負担を沖縄返還協定の「密約」として結ぶことになる。すなわち返還後も沖縄の基地は米軍が自由に使用できることとなったのだ。返還の時点から沖縄は日本に裏切られていくことになる。
ヤクザの抗争と沖縄返還交渉、この二つを軸として舞台は緊張感のある展開をしていく。そのバックには同時代のロックやR&Bが随所に流れるのが嬉しい。沖縄返還を前に、本土ヤクザの侵攻を阻止するため、70年12月、那覇派と山原派は合同して旭琉会(舞台では会名決定で昇竜会と墨書されるが、旭琉会と書いて欲しかった)を結成。同月、コザ暴勤。旧山原派はこぞって参加したと伝えられ、舞台でも迫力のあるシーンの一つとなっていた。
72年5月15日沖縄返還。73年2月コザでジェームス・ブラウン・コンサー卜を労さんたちと行えたのも、旭琉会の安定の故。74年に内部対立で上原(劇中は金城)組脱退、リンチ事件、劇の主人公である日比混血の組員によってミンタミー射殺、翌年スター射殺、旭琉会は二大巨頭を失い、本土山口組を巻き込んで抗争激化。沖縄返還による本土系列化に、最後まで抵抗したのはヤクザだったとさえ言われている。沖縄のヤクザ社会を抜きに沖縄の問題を捉えてはならないのだ。
田中伸子:ジャパンタイムス
早稲田で満員御礼で大好評上演中の「OKINAWA1972」を観た。まずは昨今ご無沙汰していた劇場の活気を体感。開幕を待つ客がまだかまだかと待ちわびる、そんな熱気に劇場が包まれていた。
その熱は劇が始まるとさらにヒートアップ。狭い小劇場の空間をミリ單位で熟知している俳優たちが空間をあますところなく使い、戦後の沖縄ヤクザ抗争、日米の沖繩返還に伴う密約交渉を一人の青年の目を通して描きながら、さらにはその後の日米の不均衡な関係ー脈々と続く圧倒的で一方的な米国の統治関係ーを示唆して幕を閉じる。
前にも書いたが、翻(脚本)、演出、役者、スタッフワーク(テクニカル&人的)、劇場、観客、、、などなどの要素がすべてが合わさってはじき出される総合点が芝居の評価。その良い例が今回の舞台。
また、観客は観劇後に自然とディベートが起こるような社会的な問題を含んだ芝居を望んでいる〜人の心をほっこりさせるような無害なハートウォーミングなものが横行する中〜ということも再確認した。
これが、オモシロい。
先日スペース早稲田で観劇した流山児事務所の『OKINAWA1972』は迫力ある芝居で見応えあった。
沖縄が返還されるとなると本土のヤクザが入って来 るから、対立抗争していた地元のヤクザ同士が大同団結するという物語は、中島貞夫監督の『沖縄やくざ戦争』を思い出したが、小劇場という空間で暴れまくるヤクザの抗争を見せられると臨場感があってコワい。
更にそこに流山児祥演じる時の総理大臣佐藤栄作が、外交特使に沖縄返還の 交渉を指示する場面が入り込んで鳥瞰的な視点が獲得されて面白い。
核兵器を作らない、持たない、持ち込ませない、という被爆国日本の国是「非核三原則」を、アメリカは軽く無視して「有事の際は事前通告無しで核兵器を持ち込める」ことを条件にして沖縄を返してくれた……という事実は国民には 全く知らされずに密約となり、「核抜き本土並み返還」を果たした佐藤栄作はノーベル平和賞を獲るという大欺瞞が後に起きる。
いちおう佐藤栄作は悩む。もしその通りにしたら「今後百年、日本はアメリカの属国となってしまう」と。悩んだかも知れないが、結局は属国の道を選び、我々は属国で育ったというわけだ
ヤクザの方が真実を貫いてるじゃないか、という話である。
流山児★事務所「OKINAWA1972」詩森ろば。沖縄裏社会の抗争、返還交渉を絡めて描く。佐藤栄作(流山児祥)、若泉(坂巻誉洋)、繊維と核。事前協議。亨(五島三四郎)と母(村松恭子)。新垣(東谷英人)深い声。海洋博1975。ウチナンチュー。
中山壮太郎:寺山修司研究者
「流山児★事務所による『OKINAWA1972』観劇。
沖縄の裏社会、佐藤栄作(首相)と若泉敬(密使)
を中心に物語は進んでいく。
日本史の中でも近現代史について充分理解している訳ではないが、各々の出来事は知っている。今回の舞台でそれらが繋がった感じである。まさに点から線ヘ、沖縄の歴史〜過去・現在・未来〜についていろいろと考えさせられた。
途中殺陣のシーン、音楽のシーンなども楽しめた。印象的だったのは国際政治学者の若泉敬に出会えたことである。雰囲気、話し方、表情などを酒巻さんはよく掴んでいた気がする。流山児さんを始め、五島さん・栗原さん・甲津さん・伊藤さん・佐原さん・荒木さんなどいつものメンバー、村松さんや新納さんや杉木さんなど全員が役になりきっていて見応えがあった。」
伊達 政保 :音楽評論家
この芝居、現在の沖縄問題に関心がある人は、全て見るべきだ。沖縄返還前後のヤクザ戦争の経過と、沖縄返還協定の裏協定である密約を扱いながら、復帰運動については全く触れてはいない。それによって真の沖縄問題が浮かび上がる。必見。音楽のセレクトも素晴らしい。
野恵:プロデューサー
流山児★事務所『OKINAWA1972』@Space早稲田 日本に返還される前後の沖縄を二つの面から熱く、でも淡々と描き出す。私のTLにいる方は、お芝居観ない人でもきっと楽しめると思う。沖縄が好きな人・気になる人は観に行けばいい。ワルとか任侠とか好きな人は何が何でも観るべき。
「スペース早稲田にて詩森ろば作演出「OKINAWA1972」
流山児祥扮する佐藤栄作をはじめ各演者達がスバラシすぎ、全員オキナワ出身かと後で聞いたら違ってみんな二ヶ月の特訓の成果らしいと知り驚愕。
知らなかった沖縄の真実、壮大な沖縄の裏面史をひとつの芝居に仕上げたスタッフの叡知とエネルギーに拍手を送りたいと同時に、知らなかった自分を叱責しつつ教えてくれた「OKINAWA1972」に感謝します♪
選曲も往年のロックの名曲が轟音を奏でとにかく騒々しい芝居だったが言葉のひとつひとつの重みが日本の、そして沖縄の戦後史の腸(はらわた)を引きずり出したようなものすごい作品だった♪
ぜひともご覧あれ…10月2日まで♪
矢野裕美:女優 小心ズ
「流山児★事務所「OKINAWA1972」エネルギーが強くてかっこよくて、人間的で誠実で、とても面白かった。詩森ろば作演出、見事なコラボで、やはり流山児ならでは。客演の方々も劇団のベテラン俳優さんたちもさすが。「俳優の躍動は、この暗澹たる社会の残り少ない希望のひとつ」by詩森さん
「流山児☆事務所『OKINAWA1972』観劇。沖縄の戦後の本土復帰を、沖縄のヤクザ同士の抗争の話と、沖縄復帰の対米交渉について佐藤栄作首相と交渉役となった学者との密談を並行して描き、沖縄復帰とは何だったのかを見つめた意欲作。ペレス元首相の訃報のことと合わせて色々考えさせられた。」
佐野バビ市:演出家
「昨日観戦した流山児★事務所『OKINAWA1972』@Space早稲田を想う。 あの狭い空間に迸る役者の言葉と動き。 我々がきちんと思考・意思表示しなければならない「沖縄」を、しっかりと見せてくれるエンターテイメント。 眩しい照明に照らされて、今もあのパワーが脳内をグルングルン。」
高木登:劇作家・鵺的主宰
「『OKINAWA1972』が面白すぎてな。内容もさることながら、演劇を信じている人たちが全力を尽くしているさまが本当に感動的でな。観ることができて良かった。あと流山児さんがいちいち面白くて最高だった。
松永玲子:ナイロン100℃劇団員
「流山児★事務所の『OKINAWA 1972』をSpace早稲田にて観劇。
大変面白かった。
沖縄返還時の密約と、当時の沖縄ヤクザの話で、説明と情報満載の重く深い内容なんだけど、教科書的でもなく、説明書的でもなく、エンターテイメントな見世物になっていたのが、お見事でした。
元々、熱量の高い劇団ではあるが、時に軽く、時に静か、そしてあくまで祝祭。俳優陣も観る度に唸るほど上手くなってるし。塩野谷さんも若杉さんも出てないのにこのクオリティとは、凄い劇団」
中野英樹:俳優
「こういうのを「暴れ筆」といふのだらう。
流山児☆事務所公演『OKINAWA1972』観劇。
詩森ろば女史の筆による、男芝居。
書きたくて書きたくてしょうがなかった想いが見事に暴れてる!
深作欣二ばりに!いやむしろ、梶原一輝ばりに(笑)!
もはや、この芝居は「昭和の少年マガジン」だ!
だから、役者陣は老若男女問わず(失礼!)、祭の如く暴れ楽しんでる。だから、物語の一挙手一投足に、役者陣の一挙手一投足に、
心動かされてしまうのだな〜。
基地問題にあーだこーだ、振りかざす正義なんざ持ち合わせちゃおりません。でも、心動かされてしまったら、あーだこーだな想いが燻って来ます。お見事な暴れ芝居でございました。」
演劇定点◎カメラ:まねきねこ
「風琴工房:詩森ろば書き下ろし新作、ロングラン公演。
舞台。ボックスを組み合わせてテーブルと椅子、部屋平床など種々見立て。
目まぐるしく転換。転換もショーの一部と見せて楽しいところ。
お話。沖縄本土返還の顛末を、政治の舞台裏と沖縄裏社会の変遷から描く。
縛られし人々を縛りのないダイナミックでカラフルな舞台で描く。抗いと煩悶をノンストップの社会派エンタメとして活写。
歴史を数値や文書でなく、個々人の生き様、息づかいから蘇らせてて好感。楽天と痛みの交錯には堪らない気持ちになるねこ。オヤジもニイチャン、ネエチャン、みなかっこよくて魅力的。
鉄砲玉・日島亨役、五島三四郎さん。こんな人居たっけ(失礼)な鮮やかさで印象。」
梶野聡
「沖縄返還が果たされた1972年を基軸にした沖縄裏社会での団結と抗争、そして首相官邸での日米交渉の本音と妥協が目まぐるしいスピードで繰り返し描かれていく。しかし、沖縄裏社会での激しい争いや裏切り、そして差別や貧困にさえ「人間性」があるのに対して、米国とnegotiationを繰り返す狭い官邸のふたりには強い「暴力性」を感じた。(たぶん作者の意図とは解離しているだろうが…)
そう感じさせた要因は、いまの沖縄で、殊更に高江で起きている人々に対する「官製の暴力」の凄まじさにある。裏社会には人情があり、信頼があり、道理があり、だからこそ裏切りがある。クニとクニとの間にはそもそも人の顔がない。あるのは紙切れ一枚である。
高江に内地の機動隊が動員されているのはその人の顔を消すための方略なのだろう。しかし、この「暴力性」はすでに沖縄だけの問題ではない。この作品からはそんな警鐘が聞こえてきた。」