これも素敵な「劇評」です。
BY tomtomノpoem&theater
流山児★事務所 高取英メモリアル2021「帝国月光写真館」
〜時空の忘却に愉悦した舞台!〜
新型コロナウイルスによって、昨年2月以来行っていなかった劇場で、
久々に観劇できたのが、この芝居であったことに、まずは感謝したい!!
2021年12月10日(金)14:00 下北沢 ザ・スズナリ
作:高取英 音楽:J・A・シーザー 演出:流山児祥 振付:神在ひろみ
出演:タツオ/山丸莉菜 サチオ/橋口佳奈 春子/鈴木麻理 秋子/竹本優希 冬子/平野直美
村上博士/塩野谷正幸、三井(帝国軍人1)/霍本晋規 三菱(帝国軍人2)
/松永将典 住友(帝国軍人3)/伊藤裕作 安田(帝国軍人4)/飯塚克之(風煉ダンス)
大島博士(写真館主)/大久保鷹 紙芝居屋/里美和彦 謎の紅マント/流山児祥
憲兵将校(黛憲兵大尉)/春はるか 密偵関口/國崎馨
西崎智江(教祖)/伊藤弘子、亜美(巫女)/竹本優希 マキ(巫女)
/本間隆斗 弥生(巫女)・少女/森永理科
ちょうど駒場の日本近代文学館で「芝居は魂だ!」という、
築地小劇場の展示を見た後だった。
500席の中劇場として1924年に建築された築地小劇場が
1945年3月10日の東京大空襲で焼失するまでを、雑誌や写真などの資料でたどった展示だった。
1940年からは客席後部に憲兵が座り、セリフや劇の内容を検閲し、中止もさせていたという。
ちょうどその頃、怪奇赤マントが美しい少女を誘拐するという噂が東京を起点に大阪まで流布したという。
しかし、芝居は火口に飛込む少女たちのシーンから始まった。
はじめは空襲の爆撃音だと思った爆音は噴火の音だった。
火口といえば富士山か? いや、伊豆大島の三原山の火口であった。
私の知識では、三原山の火口といえば劇団離風烈船の「ゴジラ」であったが、
これは上海阿片窟へとつながる火口であった・・・・・・。
わらべうたや紙芝居屋が郷愁を降り注ぐ。遠いかすれた記憶の風景。
そこに幻視写真館の怪しい人々が世界を攪乱する。
その存在を示すのが村上博士(塩野谷昌幸)であり、その天皇が大島博士(大久保鷹)であった。
そこには乾いた浪漫があった。群像の熱があった――。
伊藤裕作の存在感が半端でなかった。他の役者たちが遠慮し合うようにも見えた。
流山児祥と大久保鷹の存在は大きすぎて、集中していたドラマを緊張から緩め、解放する。
流山児はプログラムで、高取が描いた「太平洋戦争前夜の昭和ニッポンは《令和の現在》です。」
と記している。確かにそう読み取れるが、それは頭で考えること。
私は、《令和の現在》から超越した下北沢の異空間で、その空間にいることにひたすら浸った。
風煉ダンスの林周一さんが、この芝居の評(FB「Ryuzanji Company」より)で
「おもちゃ箱ひっくり返したような構成演出」と記していた。
言われれば、まさにそのようなごちゃ混ぜの楽しさがあった。
プロジェクトマッピングの映像もふんだんに使っているのも効果があったが、
こうした技術は、数年前から流山児事務所や流山児さんが主催するRAKU(旧楽塾)
の舞台で観てきたので、驚かなかった。
むしろ、そうした技術がもう自然に溶け込んでいると思った。
アフタートークで、高取英の題材が盛りだくさんに入っていたというが、
私は初めてだったのでわからない。
ただ、寺山的なものや唐的なもの――
つまり1980年前後(私が目撃したのはその時代だけなので)の
アンダーグラウンド演劇の要素(それはおそらく寺山や唐が生まれ育った戦前戦中敗戦直後のもの?)は感じ得た。
眼前の舞台に夢中になった時間は、それだけで生命を感じたのだった。